女性と瘀血(おけつ)④

シリーズ連載『女性と瘀血』第4回のテーマは、女性の人生における二大転換点に焦点を当てた産後更年期の瘀血です。
漢方医学の根幹である「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランス、そして前回ご紹介した「ライフサイクル」の視点から、なぜこの時期に瘀血(血の滞り)が深刻になりやすいのか、そしてどう向き合うべきかを詳しくご紹介します。

前回は、女性の身体が「7の倍数」のサイクルで変化し、30代半ばを過ぎると徐々に「血(けつ)」の巡りが悪くなり、瘀血(おけつ)が顕著になるというお話をご紹介しました。
今回は、そのライフサイクルの中でも、特に瘀血が深刻な問題となりやすい「産後」と「更年期」という、二つの大きな転換点について、漢方医学の「気・血・水」の考え方を用いて深く掘り下げていきます。
なぜ、この時期に身体の中で「血」が滞ってしまうのでしょうか。そのメカニズムを知ることは、不調を解消し次のステージへと健やかに進むための第一歩になるかもしれません。

まず、漢方医学における健康の定義をおさらいしましょう。私たちの身体は「気」「血」「水」という三つの要素が過不足なく、かつスムーズに巡ることで健康が保たれています。

  • 気(き): 体内を流れるエネルギーとされ人間が生命活動を営むための生理機能であり 生命の根源とされています。
  • 血(けつ): 気の作用により血脈中を絶えず循環している赤い有形の物質とされています。
  • 水(すい): 血液を除く体内すべての生理的な水液の総称(涙液、消化液、唾液、汗、尿、関節液など)とされています。

瘀血とは、この中の「血」の流れが滞り、古くなって動かなくなった状態です。そして、血が滞る原因は、「血」そのものの問題だけでなく、「気」「水」の乱れとも深く関わっています。


それでは、産後と更年期それぞれの時期について見ていきましょう。

出産は、女性の身体にとって人生最大の「血」のイベントです。漢方では、産後の身体の状態を「多気多血(たきたけつ)」(妊娠中に蓄えた気血が満ちている状態)から一転して、「亡血(ぼうけつ)」(大量の血を失う)と「大虚(だいきょ)」(気力が著しく消耗した状態)と捉えます。

なぜ産後に瘀血が起こるのでしょうか。

大量の出血により身体は深刻な「血虚(けっきょ:血不足)」に陥ります。川の水が干上がると流れが止まって淀むように、血が足りないと残った血もスムーズに流れなくなり、滞って瘀血となります。

出産による大消耗は、血を押し流すポンプの役割を果たす「気」も著しく不足させます(気虚:ききょ)。血があっても動かす力がなければ、その場に留まり瘀血へと変化します。

慣れない育児、睡眠不足、ホルモンバランスの激変など、産後の女性は強烈なストレスに晒されます。ストレスは「気」の巡りを滞らせ(気滞:きたい)気の流れが止まれば、それに伴って血の流れも止まり瘀血を誘発します。

産後の悪露(おろ:子宮からの分泌物)がいつまでも続いたり、色が暗かったり塊が混ざったりするのは、子宮内に瘀血が残っているサインです。また、産後の精神的な不安定(マタニティブルー)や、深刻な体調不良も、この気血の不足と瘀血が複雑に絡み合って起こります。

更年期(閉経前後)は、前回ご紹介したライフサイクルにおいて「腎気(生命エネルギー)」が急激に衰え(7×7=49歳)、身体が大きな転換を迎える時期です。この時期の瘀血は、産後とはまた異なるメカニズムで発生します。

血を全身に巡らせる根源的な力である「腎気(じんき)」が衰えます。産後の気虚が一時的な消耗なら、更年期の気の衰えは、ライフサイクル上の必然的な変化です。ポンプの力が永続的に弱くなるため、血が滞りやすくなるのは避けられません。

腎気の衰えは、身体を潤す「水」の根本である陰液(いんえき)の不足も引き起こします。陰液が足りなくなると、身体は相対的に熱を持ちやすくなり(陰虚火旺:いんきょかおう)、体液(血や水)が煮詰まってドロドロと粘り気を持ちます。粘り気が出た血はスムーズに流れなくなり、瘀血となります。

閉経に向かうにつれ、これまで毎月「古い血」を外へ排出していた月経が不安定になり、やがてなくなります。月経は女性にとって最大の瘀血排出システムでした。それが機能しなくなることで、古い血が体内に留まりやすくなり、上半身への「のぼせ」や、下半身の「冷え」といった、瘀血特有の症状を加速させます。

更年期特有の頑固な肩こり、頭痛、冷えのぼせ(ホットフラッシュ)、気分の落ち込み、不眠などは、この「気」の衰えと体液の粘りによって生じた強固な瘀血が原因であることが非常に多いのです。

産後も更年期も、女性の身体が大きく、そして深く変化する時期です。この時期に瘀血が起こるのは、身体の自然な反応でもありますが、それを放置すれば、その後のQOL(生活の質)を著しく低下させ他の病気の引き金にもなりかねません。

漢方では、産後には「血を補い、気を巡らせながら、優しく悪露(瘀血)を出す」養生を、更年期には「腎を補い、身体を潤しながら、強固な瘀血を動かす」養生を行います。

「気・血・水」のどれが乱れているのか、今のライフサイクルのどこにいるのか。ご自身の身体の状態を正しく知り、適切な漢方薬や養生法を取り入れることで、産後の消耗から回復し、更年期という嵐を乗り越え、次のステージへと健やかにステップアップすることができます。
けいクリニックでも、心身の三要素である「気・血・水」へのアプローチにより、皆さまにとって最適なバランスを取り戻す為のお手伝いが出来ればと考えております。

次回は、これらの瘀血が原因で起こる、より具体的な不調や疾患、そして漢方でのアプローチについて解説する予定です。

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