女性と瘀血(おけつ)③
シリーズ連載『女性と瘀血(おけつ)』、今回のテーマは女性の身体の変遷を紐解く「漢方におけるライフサイクル」です。
東洋医学のバイブルとも言える漢方の古典『黄帝内経※』の教えを軸に、女性の心身がどのように変化し、そこに「血(けつ)」がどう関わるのかをお伝えできればと思います。
※黄帝内経(こうていだいけい):約2000年以上前の中国で編纂された、東洋医学(漢方)の現存する最古の医学書です。医学の基礎理論から、診断、治療(鍼灸など)、養生法まで幅広く記されており、現代の漢方医にとってもバイブル的な存在です。
漢方におけるライフサイクル
『黄帝内経』には、女性の身体は「7の倍数」の年齢の時に「節目」を迎え、身体の変化が訪れるという興味深い記述があります。現代医学におけるホルモンバランスの変化とも驚くほど一致するこの教えは、私たちが自分自身の身体を理解するために大きな助けとなります。
因みに、男性は「8の倍数」の年齢の時が「節目」とされています。
7の倍数が刻むリズム
『黄帝内経』の「上古天真論※」では、女性の成長を以下のように説いています。
※上古天真論(じょうこてんしんろん):『黄帝内経』の冒頭にある重要な篇(章)の名前です。ここでは、理想的な生き方や、加齢に伴う身体の変化(女性の7年周期など)が記されており、健康で長生きするための養生思想が説かれています。
- 7歳(1×7): 腎気(※)が盛んになり、歯が生え変わり、髪が伸びる(成長の始まり)
腎気(じんき):漢方における「腎(じん)」という臓器に蓄えられた、生命力の根本となるエネルギーのことです。親から受け継いだ先天的なエネルギーと、食事から得る後天的なエネルギーから成ります。女性の7年周期はこの腎気の充実に伴って始まり、ピーク(28歳)を過ぎると徐々に減少していきます。腎気をいかに無駄遣いせず、補っていくかが健康長寿の秘訣です。 - 14歳(2×7): 天癸(※)が至り、任脈が通じ、月経が始まる(初経)
天癸(てんき):生命活動の源である「腎(じん)」に蓄えられたエネルギーが成熟し、生殖能力を司るようになった特別な物質のことです。現代医学でいう性ホルモン(特にエストロゲンなど)の働きに近く、女性では14歳頃に「天癸が至り」初経を迎えます。 - 21歳(3×7): 腎気が平均し、知恵がつき、身体が完成する
- 28歳(4×7): 筋骨が強く、髪も最も長く、身体が最も充実する(ピーク)
- 35歳(5×7): 陽明の脈(※3)が衰え始め、顔がやつれ、髪が抜け始める
陽明(ようめい)の脈(陽明脈):主に消化器系(胃や大腸)に関連する「経絡(けらく:気の通り道)」の通り道のことです。漢方の古典では、女性の身体の変化において、35歳を過ぎるとこの陽明の脈が衰え始めると説かれています。陽明の脈は顔面を広く通っているため、ここが衰えると顔の肌のハリが失われたり、髪が抜けやすくなったりと、美容面での変化として現れやすくなります。漢方的な美容養生において、非常に重視されるポイントです。 - 42歳(6×7): 三陽の脈(※4)が上に衰え、顔は枯れ、髪は白くなり始める
三陽(さんよう)の脈:これは単一の経絡(気の通り道)ではなく、身体の外側(陽)を守る役割を持つ、太陽(たいよう)脈・陽明(ようめい)脈・少陽(しょうよう)脈という3つの大きな経絡の総称です。これらはすべて顔や頭部を通っています。漢方の古典では、42歳を過ぎるとこの「三陽の脈」すべてが衰え始めると説かれています。以前(35歳)から衰え始めていた陽明脈に加え、他の2つの脈も弱まることで、顔の枯れ(シワや乾燥)がより顕著になったり、白髪が増え始めたりするなど、外見上のエイジングサインがはっきりと現れるようになります。更年期に向けた本格的な身体の転換点を示す指標です。 - 49歳(7×7): 任脈(※4)が虚し、天癸が尽き、地道が通じず(閉経)、形壊れて子をなせなくなる
任脈(にんみゃく):身体の前側の正中線(中心線)を流れる、重要な「経絡(けらく:気の通り道)」の一つです。別名「陰脈の海」とも呼ばれ、女性ホルモンのバランスや妊娠、出産と非常に深く関わっています。この流れがスムーズであることが女性の健康には不可欠です。
ライフサイクルと「瘀血(おけつ)」の深い関係
このサイクルのなかで特に注目すべきは「血(けつ)」の巡りです。以前のブログでも触れていますが、女性の身体は一生を通じて月経、妊娠、出産、閉経と、常に「血」と密接に関わっています。28歳をピークにエネルギーが下降線を描き始める30代半ば以降、気の巡りが滞る「気滞(きたい)」や、血の巡りが滞る「瘀血」が顕著になりやすくなります。
特に更年期(49歳前後)に向かう時期は、血を動かす力が弱まり、体内に古い血が停滞しやすくなります。これが肩こり、頭痛、冷え、のぼせ、さらには婦人科系疾患の引き金となることも少なくありません。
「今」の自分を知り養生する
東洋医学の素晴らしい点は衰えをただ嘆くのではなく、現状に合わせた「養生(ようじょう)」があることです。
- 20代・30代: 過労やストレスを避け、血を補い、巡らせる力を蓄える。
- 40代以降: 補うだけでなく、滞り(瘀血)を取り除き、流れをスムーズに保つ工夫をする。
ご自身のライフサイクルが今どこにあり、どのような「血」の状態にあるのか。それを知ることは、10年後、20年後の自分を慈しむことにつながります。
「最近、巡りが悪いかも?」と感じたら、それは身体からの大切なサイン。漢方の知恵を借りて、巡りの良い日々を取り戻していきましょう。
どうしても気になるときは、どうぞお気軽にご相談ください。


